ある日のこと
![お昼の時間。初めて会った人 とも仲良くなれます。](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=703x10000:format=jpg/path/s2eded571be519fbb/image/iff65c2ca09ced8dd/version/1445928173/image.jpg)
グォーン、ガガガガガ。
木の板を切り抜いている女性が2人いる。
糸ノコギリで小さな丸い円を切り抜く小林さん。開店するカ
フェ(※注)で使う豆皿を製作している。箸から始まり、フォーク、
スプーン、テーブルの天板を手作りした。「どうせなら買うより
作った方がいいと思って」。完成したテーブルに思わず頬ずりし
たそうだ。
![切り抜かれた豆皿。手前の板 にある線のようなものがカミキリ 虫の仕業。](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s2eded571be519fbb/image/i763d7cd3f9f482bb/version/1447651188/image.jpg)
作業が順調に進む中、小林さんの手が止まった。「あれ、何こ
れ?」板に丸い穴が空いていた。テノ森の代表細井さんに見せ、
カミキリ虫によるものと判明。「糸でも通そうかな」予想外の出
合いに小林さんは心を弾ませていた。
もう一人の女性は、自宅用に木の器を作っていた。
「神戸から始発に乗ってきました」。「え?」通常の思考回路で
は理解できず、続く言葉が出てこない。「ホームページで見て、
おもしろそうやなと思って。どこにあるとか考えずにきました」。
藤澤さんは、神戸市在住の公務員。和歌山県で行われた杉の間
伐体験に参加し、その杉で木のスプーンを自分で作ったことが
きっかけとなった。「生の木を切ったんですけど、人参みたいに
瑞々しくて。木のスプーンは口あたりもいいし、他のものも作
りたくなって」。往復1200キロの移動距離は、藤澤さんの好
奇心を阻むことはなかった。
器を作るためにはノミで木を削っていく。「器を彫るときには、
まず木の真ん中に小さな器を彫るんです、そして少しずつ深く
広く彫っていくのを繰り返すと、人は自然とつくる器の曲面を
体で覚えます」。さらっと深いことを言う細井さん。
トントントントトト。
遠慮ぎみな音が鳴り始め、床に削り取られた木屑が落ちて行
く。慣れてくると音も木屑も大きくなっていき、人、道具、木
が融合し始めるのを感じる。
![ノミで削り取られた木屑。完 成に近づくほど床に積もっていく。](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s2eded571be519fbb/image/i63ce1e8578df8f7c/version/1447651444/image.jpg)
「ハーゲンダッツをすくっているみたいで」。ノミが木に入り
込んでいく様を藤澤さんはこう例えていた。
![ノミで削り取る作業は、とても 気持ち良さそう。「腱鞘炎になり そう」と本人は言っていましたが。](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/none/path/s2eded571be519fbb/image/i9c037ea1e3dcd497/version/1447651200/image.jpg)
「こんにちは」女性が訪ねて来た。
友人にテノ森を紹介しに来たようだった。
「小川さんです。時々、手伝ってもらっています」。
ここには、講習会の受講者はもちろん、手伝いに来てくれる人
もたくさん訪れる。「手伝ってくれてありがとう」「手伝わせて
くれてありがとう」と感謝し合う関係が築かれている。そして、
何と言っても「手伝いたくなる何か」がテノ森にはあるのだ。
陽が傾いてきた。
「また来ます」。出来上がったお皿を携え藤澤さんは帰路に着いた。
明日はどんな出会いが待っているのだろう。
※注 8月末に福津市日蒔野にオープン。店名は「花林茶庵」