ある日のこと

お昼の時間。初めて会った人 とも仲良くなれます。
お昼の時間。初めて会った人 とも仲良くなれます。

 グォーン、ガガガガガ。

 木の板を切り抜いている女性が2人いる。


 糸ノコギリで小さな丸い円を切り抜く小林さん。開店するカ

フェ(※注)で使う豆皿を製作している。箸から始まり、フォーク、

スプーン、テーブルの天板を手作りした。「どうせなら買うより

作った方がいいと思って」。完成したテーブルに思わず頬ずりし

たそうだ。

切り抜かれた豆皿。手前の板 にある線のようなものがカミキリ 虫の仕業。
切り抜かれた豆皿。手前の板 にある線のようなものがカミキリ 虫の仕業。

 作業が順調に進む中、小林さんの手が止まった。「あれ、何こ

れ?」板に丸い穴が空いていた。テノ森の代表細井さんに見せ、

カミキリ虫によるものと判明。「糸でも通そうかな」予想外の出

合いに小林さんは心を弾ませていた。

 

 

 もう一人の女性は、自宅用に木の器を作っていた。

 「神戸から始発に乗ってきました」。「え?」通常の思考回路で

は理解できず、続く言葉が出てこない。「ホームページで見て、

おもしろそうやなと思って。どこにあるとか考えずにきました」。

藤澤さんは、神戸市在住の公務員。和歌山県で行われた杉の間

伐体験に参加し、その杉で木のスプーンを自分で作ったことが

きっかけとなった。「生の木を切ったんですけど、人参みたいに

瑞々しくて。木のスプーンは口あたりもいいし、他のものも作

りたくなって」。往復1200キロの移動距離は、藤澤さんの好

奇心を阻むことはなかった。

 

 器を作るためにはノミで木を削っていく。「器を彫るときには、

まず木の真ん中に小さな器を彫るんです、そして少しずつ深く

広く彫っていくのを繰り返すと、人は自然とつくる器の曲面を

体で覚えます」。さらっと深いことを言う細井さん。

 

 トントントントトト。

 遠慮ぎみな音が鳴り始め、床に削り取られた木屑が落ちて行

く。慣れてくると音も木屑も大きくなっていき、人、道具、木

が融合し始めるのを感じる。

ノミで削り取られた木屑。完 成に近づくほど床に積もっていく。
ノミで削り取られた木屑。完 成に近づくほど床に積もっていく。

 「ハーゲンダッツをすくっているみたいで」。ノミが木に入り

込んでいく様を藤澤さんはこう例えていた。

ノミで削り取る作業は、とても 気持ち良さそう。「腱鞘炎になり そう」と本人は言っていましたが。
ノミで削り取る作業は、とても 気持ち良さそう。「腱鞘炎になり そう」と本人は言っていましたが。

 「こんにちは」女性が訪ねて来た。

 

友人にテノ森を紹介しに来たようだった。

 

「小川さんです。時々、手伝ってもらっています」。

 

ここには、講習会の受講者はもちろん、手伝いに来てくれる人

もたくさん訪れる。「手伝ってくれてありがとう」「手伝わせて

くれてありがとう」と感謝し合う関係が築かれている。そして、

何と言っても「手伝いたくなる何か」がテノ森にはあるのだ。

 

 陽が傾いてきた。

「また来ます」。出来上がったお皿を携え藤澤さんは帰路に着いた。

 明日はどんな出会いが待っているのだろう。

 

※注 8月末に福津市日蒔野にオープン。店名は「花林茶庵」