クラウドファンディングをするきっかけになったちゃぶ台作り
西濱家のちゃぶ台作りに関しては、お母さんのさとこさんが病気であることを伏せて、ちゃぶ台作りの風景を記事で書いていますが、さとこさんが闘病しながら制作していることを分かった上で全体を振り返ります。
このプロジェクトの必要性や雰囲気、具体的にどんなことができるのかについては、西濱家のちゃぶ台づくりを通してお伝えできると考えたためです。少し長くなりますが、ぜひお読みいただければと思います。
西濱家のちゃぶ台づくりでの気付き
1/7 西濱家のみなさん、テノ森で食卓を作りませんか?
この写真は、西濱家がテノ森でちゃぶ台を作り、完成したときのものです。お父さん、お母さん、そして姉のあきちゃん、妹のはるちゃん、みんな大満足の表情です。
西濱家はネパールやマレーシアで長年生活していましたが、お母さんのさとこさんが福岡に里帰りした際、癌が見つかりました。病気はかなり進行しており、治療のため日本で生活することになりました。
「今年4歳のはるちゃんの成人式をみんなでお祝いする」と家族の姿を絵に描き、「絶対治す!」という強い決意で前向きに取り組んでいます。
私はさとこさんに、「テノ森で家族の食卓を作りませんか?」と提案しました。「つくりま~す!」と快諾してくださり、2022年5月から制作が始まりました。
2/7 小さな時間も優しい時間に
西濱家が毎回テノ森に来ると、お父さんがまず最初にするのは、子どもたちが外で楽しく遊べるように工夫を凝らすことです。ロープを使ってターザン遊びができるようにしたり、ブランコを作ったり、ちょっとしたアイデアで遊び場を作り、子どもたちが楽しい時間を過ごせるように準備を整えてから作業を始めます。
3/7 テノ森で本格的な家具づくり
テノ森のちゃぶ台づくりでは、希望があれば木材屋さんから届く粗製材の木材を、大型木工加工機械を使って真っ平で真っ直ぐな木材に加工するところから始めることができます。ざらざらした木材も、加工を重ねるごとに美しい表情へと変わり、最終的には紙やすりで細かく仕上げることで、肌に吸い付くような滑らかな木肌が現れます。
初めて操作する大型木工機械では、表面を平らにする鉋盤や材料を切る丸鋸盤の高い加工精度に驚かされるでしょう。木工旋盤で角材を脚材に加工し、4本の脚を同じ美しい形に仕上げていきます。丸ホゾも、先端を29.8mm、付け根部分を30.0mmに精密に仕上げていくことで、初心者でも道具の使い方と加工のポイントを掴めば、見事に仕上げることができます。
4/7 子どもたちも手伝います。
製材した幅の狭い木材を横に接ぎ合わせて、広い天板を作ります。木工用ボンドを接ぎ合わせる面に均等に塗り、ビスケットジョイント用の溝にもボンドをしっかり入れます。接合のために板と板の間に入れるビスケットは圧縮加工されており、木工用ボンドの水分を吸って溝の中で膨張し、接着力が高まります。
次に、長いバークランプを何本も使って均一な力で板を締め上げます。表裏の力加減が狂うと板が反ってしまうので、慎重に作業を進める必要があります。はみ出たボンドは、水で濡らした歯ブラシで柔らかくしてから、濡れたウエスで丁寧に拭き取ります。
子どもたちは最初、ボンドを手で伸ばす感触に少し戸惑っていましたが、余計なボンドが拭き取られていくと、完成した天板の木の美しさが見えてきて、ワクワクと楽しさが増していきました。
5/7 心の揺れとユーモア
5月に作業を始めたとき、お母さんのさとこさんは余命5ヶ月と宣告されていました。作業はさとこさんの体調に合わせ、ゆっくりと進めていきました。余命3ヶ月と告げられたとき、お父さんは加工のミスが増えていましたが、それでも天板をきれいな真円に切り出すことができました。
さとこさんは脚材を旋盤で丸く仕上げる作業に集中しており、その技術は見事なものでした。途中でお父さんと作業を交代し、お父さんもまた集中して作業に取り組みました。そんな中、私がカメラを向けると、さとこさんは丸くなった脚材を持っておどけてお父さんを攻撃するポーズをしました。真剣なお父さんは少し邪魔そうにしていましたが、さとこさんはその反応に苦笑いしていました。
6/7 助っ人登場
さとこさんの姪っ子が、叔母を心配してホンジュラスから福岡に数ヶ月滞在することになりました。彼女は、はるちゃんやあきちゃんの面倒をよく見てくれ、テノ森でのちゃぶ台づくりにも積極的に参加してくれました。そのおかげで、作業はどんどん進みます。完成まであと少し、みんなで仕上げの紙やすりをかけ、ちゃぶ台がつるつるすべすべになっていきます。お父さんは、脚材と天板がしっかり組み上がるように、最後の加工を丁寧に進めています。
7/7 最後は家族みんなでオイル塗装をします。
料理用の胡桃油をたっぷり天板に染み込ませていきます。このオイルは子どもの手でも安全なので、小さな手と小さく切ったウエスで、カサカサの木の表面にたっぷりと油分を染み込ませていきます。オイルが全体にしっかり行き渡り、コネクターで天板と脚部を連結すると、素晴らしい完成度のちゃぶ台が形になりました。
誰かが「バンザーイ!」と声を上げました。その瞬間、工房を利用していた他の人たちも一緒に「バンザーイ!」と、自分のことのように喜びました。西濱家のちゃぶ台は9月11日に完成し、無事にご自宅へ旅立ちました。
気づいたこと、教えてくれたこと
もしかしたら一緒に食事ができなくなるかもしれない、もしかしたら勉強を見てあげることができなくなるかもしれない、でも今ならテノ森で食卓や机を一緒につくることができる。
さとこさんやご家族がどんな思いで過ごしていたのか、私には分かりません。しかし、彼らが毎日の小さな時間やささやかな事柄をとても大切にしているように見えました。テノ森では、そんな家族の大切な時間に、丁寧なものづくりの時間を加えることができます。ちゃぶ台づくりの時間は、最初から最後まで楽しく、明るく、そして優しいものでした。みんなで笑いながら、長く使える家具を作る、その瞬間を共有できたことは、とても特別な経験でした。
翌年の1月にはみんなでさとこさんを見送りました。
既製品の購入では経験できない
家族にだけ深く刻まれるものづくりの時間が確かにありました。お母さんと一緒に作ったちゃぶ台は単なるモノを超えた存在となりました。モノを大切にすることは、命を大切にすること同じ意味を持つようになりました。
これからも続けるためには壁がある
困難な状況を抱えた家族でも参加できる、素敵な体験の場があって欲しい。しかし、本格的なモノづくりに参加するためには、経済的な壁が高いことが分かりました。闘病中の家族の治療費は膨大であり、ひとり親家庭では、収入、家事、子どものイベントを一人で担いながら頑張る親にとって、家族でモノづくりをすることは選択肢に上がることすら難しい状況です。
このプロジェクトでは、闘病中の家族がいる子育て家庭や、ひとり親で子育てをしている家庭に、西濱家のような特別なモノづくり体験を提供し、参加していただきたいと思っています。この体験を第2弾、第3弾と続けていくために、壁を乗り越える資金をクラウドファンディングで募ることにしました。
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